『明日、死ぬかもよ』と思ったときにする魔法の質問
「脳梗塞かもしれない」
そう思った瞬間から、僕の時計の針は止まってしまった。
行き交う人たちの影がスローモーションで流れる。
「明日」はもう来ないかもしれない。
そんなことが頭をよぎった。
今日という日を精一杯生きただろうか。
脳梗塞は脳の血管が詰まることによって生じる疾患である。
心拍数を上げないように。
ゆっくりゆっくり仕事に向かった。
手足の痺れ。
めまい。
耳鳴り。
調べれば調べるほど症状に合致する。
「今ここ」
永遠に命があるかのように、怠惰な時間を過ごしてきたのかもしれない。
将来への不安や恐れ。
そんなものばかりが行動の原動力になっていた。
もしかしたら、「明日」はないかもしれない。
そう思った瞬間。
フォーカスしたのは「今ここ」
未来でもなく、過去でもなく。
「今ここ」
自分はどうありたいのか。
自分は何をしたいのか。
残された時間は多くはなかった。
ACジャパンのコピーがふと心に浮かんだ。
お前が無駄に過ごした“今日”は、昨日死んだ誰かが死ぬほど生きたかった“明日”なんだ。
僕は1日1日を大切に生きることができただろうか。
しつもん
残された命がわずかだとしたら、何をしますか?
何のために生まれて 何をして生きるのか
MRIを撮影しに放射線科に向かう。
不安が少し顔を出す。
なぜか口ずさんだ歌は『アンパンマンマーチ』。
「なんのために 生まれて
なにをして 生きるのか♪
こたえられない なんて
そんなのは いやだ♪」
キャッチーなメロディーの割には深い歌詞だ。
改めて思う。
抱えている恐れや不安。
僕らの執着はすごい。
物にあふれた生活を送っている。
たくさんお金を稼いでも。
たくさん装飾品を手に入れても。
いい車も、いい女も。
何一つ、死後の世界には持っていくことはできないのに。
それなのに、欲望たるや恐ろしい。
僕らが残せるものは何だろう。
「今ここ」
僕のことなどきっと忘れてしまうだろう。
いつかきっと忘れてしまうだろう。
それでいい。
それがいい。
ふと心に浮かんだ。
僕はどんな生き方をしてきただろう?
自分に問いかけた。
だれかに何かを残した人生だっただろうか?
しつもん
あなたがもっとも伝えたいことは何ですか?
愛してくれてありがとう
まもなく検査結果を聞かなければならない。
どんな言葉を聞いても、受け入れよう。
そんな折、ふと子どもたちのことが脳裏に浮かんだ。
淋しい思いをさせるだろう。
きっと涙にくれるだろう。
でも、この子たちに心配はいらない。
きっとそれぞれが自分の人生を歩んでくれるだろう。
信じて手放す。
子どもたちに「あ〜だ」「こ〜だ」と言いすぎたのかもしれない。
何に心配していたのだろう。
大丈夫。
そう思えた。
あの子たちなら大丈夫だ。
いい父親だっただろうか。
父親にしてくれてありがとう。
生まれてきてくれてありがとう。
ただ、それだけ。
次に浮かんだのは妻のことだった。
まだまだ小さい我が子たち。
これからたくさんの苦労をかけるだろう。
苦労を分かち合う。
そう誓い合ったはずなのに。
それを思えば胸が痛い。
幸い、両方の実家も頼りになるのだから大丈夫だろう。
こんな僕を愛してくれてありがとう。
そんなことをぼんやり考えていた。
過去でもなく、未来でもなく。
「今ここ」
ネイティブ・インディアンの教えに次のような言葉がある。
あなたが生まれたとき、周りの人は笑って、あなたは泣いていたでしょう。
だからあなたが死ぬときは、あなたが笑って、周りの人が泣くような人生をおくりなさい。
みんなが涙を流してくれる人生を送れただろうか。
重い足取りのまま、僕は診察室に入った。
しつもん
あなたを愛してくれた人はだれですか?
医師の告知に耳を傾ける。
コンピュータの画面に表示された脳の画像。
僕の脳の断面図が次々と映し出される。
診察室を包み込む静寂。
一拍の間を置いて、医師は静かに語り始めた。
「きれいな脳ですね〜」
「えっ!」
「いや〜っ、きれいな脳ですよ。血管も。何にも心配ないですねぇ」
えっ…!
「う〜ん、脳は大丈夫ですね〜」
ど…、どうするんだ?
逆にどうするんだ?
たくさんの方が心配のメッセージをくれたんだぞ。
勘違いでした…。
書けないぞ、そんなこと。
「せ…、先生。手足の痺れはどうなんでしょう?」
「う〜ん、わかんないなぁ。まぁ様子を見ましょう」
いや…、むしろ何か名前をつけてくれませんか??
むちゃくちゃカッコ悪いじゃないッスか。
結果、血液検査もし、MRIも撮り、何もわからなかった…。
現代医学でもわからない病。
そういうことにしよう…。
いや…、よかったよ。
ホントによかった。
「今ここ」
冗談はさておき…。
たった2日間だけれど、真剣に命と向き合ってみました。
それは本当のこと。
たくさん自分に「しつもん」してみたんです。
僕らは「明日」という日が来ることを当たり前のように感じているかもしれません。
でもね、もしかしたら「明日」は来ないかもしれません。
朝、目覚めたら、それはもう奇跡のような1日の始まり。
過去でもなく、未来でもなく。
「今ここ」
今日という日を精一杯に生きようと思いませんか?
しつもん
今日という日をどんな1日にしますか?
魔法の質問
- 残された命がわずかだとしたら、何をしますか?
- あなたがもっとも伝えたいことは何ですか?
- あなたを愛してくれた人はだれですか?
- 今日という日をどんな1日にしますか?